Letters from the World

インド訛の正体

2004/01/05 15:37

週刊BCN 2004年01月05日vol.1021掲載

 先日、我が家に酷いインド訛(なまり)の電話がかかってきた。「リサーチ・アシスタントはいらないか」と言う。サンフランシスコ郊外に住む僕と女房は、通信業界を専門とするジャーナリストとコンサルタントのコンビ。毎日リサーチばかりの日々だ。電話の主は、そんなことを知っていて「色々な文献調査を安い時給でやるぞ」と熱心に売り込んでくる。実は最近、この手の話をよく耳にする。例えば、ここ数年、コールセンター業界はインドブームに沸いている。消費者からの問い合わせや返品対応などを受けるコールセンター(電話相談)は、米国で大きな業界だった。

 しかし、この業界もインターネット電話のおかげで大きく変わってしまった。いまやAOL(アメリカ・オンライン)のコールセンターはすべてインドに移り、数千人のオペレータが太平洋を超えて応対している。インターネットを使えば国際電話代はべらぼうに安い。それならインドの安いコールセンター業者を使えば、経費が安く済むというわけだ。もちろん、米国の消費者は「インド訛がきついな」と思っても、自分がインドのオペレータと話しているなんて気がつかない。

 この「サービスの海外流出」は、コールセンターだけでなく、ソフトウェア開発などにも広がっており、「ハイテク業界の空洞化」として騒がれている。ハイテクのおかげで、企業はコストを押さえ利益をあげられるが、肝心の雇用は伸びない。この「雇用なき経済回復」の影には、こうした空洞化現象が重要な役割を果たしている。我が家にかかってきた電話も、実はインドから。ネットがあれば、海外からでも米国情報はいくらでも調べられるので、最近は電話相談だけでなく、リサーチ業界にも進出しているそうだ。このインドの会社は、シリコンバレーの大手雑誌ベンチャーが倒産したときに顧客リストを買ったとか。もちろん、我が家の電話番号もそのリストに乗っていたわけだ。(米サンフランシスコ発:ITジャーナリスト 小池良次)
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