Letters from the World

日本発ベンチャーに期待

2003/12/08 15:37

週刊BCN 2003年12月08日vol.1018掲載

 海外から日本を相手に仕事をするようになってから、すぐに気づいたことがある。それは、調査や企画の依頼の内容に、なぜか「流行」があると言うことだ。私が主に扱っているIT業界は特に動きが早く、最新技術などは一刻でも早く情報を、という必要性もわかるので、同時期に同様の依頼が続くこと自体は決して不思議ではない。しかし何もかもが一度に重複してしまうのは、やはり自然な状況ではないだろう。もしかしたら大手メーカーのどこかとか、とある行政機関あたりが音頭をとって、「今度は○○が重要になります」と煽っているのではないかと、勘ぐってしまう。

 当方としては、似たような業務が続けば、実質的に作業は楽になるし、私自身もより深くそのテーマを理解できるため、有り難いことではあるのだが、しかしやはり釈然としない思いも残るのである。事業戦略の土台であるべきリサーチや、その戦略そのものの成り立ちを自身が興味をもってのことならまだしも、言われるがままの右へ倣えの所作だとすると、期待する結果など望めるわけはなかろう。

 いかに日本国内のこととはいえ、独自路線の採択が社会的に冒険であったり、異端児として扱われたりというデメリットは今ではないのではないか。しかも現在の様な不景気時には、そのような体面を気にしている余裕は全くないはずだし、何より企業の姿勢としてあってはならないことである。海外に長く住むと、なおのこと日本企業の躍進を心待ちにするようになる。特に中小のベンチャーでも躍進が望めるIT分野となればなおさらだ。ある取材時に「米国のIT不況は、中小にとっての最大のチャンスだ」と言ったベンチャー企業の創業者がいた。混乱時に新勢力が勢いを持つのは、何も政治の世界だけの話しではない。上から押しつけだけではない、更なる1歩を日本発ベンチャーにも期待したいものである。(ニューヨーク発:フリージャーナリスト 田中秀憲)
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