旅-経営者の目線-
<旅-経営者の目線->39.幻想の世界 桂林
2003/10/20 15:27
週刊BCN 2003年10月20日vol.1011掲載
香港から国際列車で広州に着き、翌々日空路1時間余りで桂林空港に着いた。
桂林市の近くに始皇帝が拓いた湘江と漓江を結ぶ大運河がある。桂林は古来、天下第一の景とされて、水墨山水画の源といわれ、多くの文人墨客の訪れたところである。
私もテレビや写真集などを通して、かなりの知識を持っているつもりだった。しかし百聞は一見にしかずで、そんな私の知識や予想を遙かに超えた余りの素晴らしさに驚嘆するばかりであった。
それはどんな言葉をもってしても表現しきれない怪しいまでに美しい奇観であった。観光船は大型の2階造りで、屋上がデッキになっておりタグボートに引かれて流れるように静かに走る。
川岸には竹林が多く、その竹を数本組んだだけの小舟に乗って漁をしている人達がいた。私達はデッキの最前列に立って、桂林から陽朔まで6時間の漓江下りを、瞬時を惜しんで移りゆく左右の景を眺めていた。
尾崎紅葉の金色夜叉の一節に「車は馳せ景は映り~」というのがあったが、「船は走り景は映り~」と口ずさみながら、いつまでもデッキに佇立したまま動くことができなかった。
船が下るにつれて無数の林立した山々が、近くの山は走馬灯のように次々に通り過ぎ、霧に霞む遠くの山はかすかに動くという、遠近幾重もの幻想的な異様な動きに、前後左右を巨大な妖怪に囲まれたような、凡そこの世のものとは思われない無気味さを感じていた。
聞けばこの辺りは数億年前には海底だったという。桂林の美しさは写真や絵で見るよりも、漓江下りの船上から怪しく動く山々を眺めるのが最高である。 この時の印象はきわめて強烈で、今も鮮やかに眼底に残っている。
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