旅の蜃気楼
今年の名月
2003/09/15 15:38
週刊BCN 2003年09月15日vol.1006掲載
▼「こんなことがあるんだ」と、出来事の大きさに唖然とした。好きなジャーナリストに、ニューヨーク・タイムズのトーマス・フリードマンがいる。1999年に『レクサスとオリーブの木』を書いた外交問題コラムニストだ。「ときには、1本のオリーブの木をめぐって激しい衝突が起こる」(抜粋)。家族、共同体、部族、国家、宗教という自尊心と帰属意識のなかから、1本の木をめぐって、爆発的なエネルギーがほとばしる。その一方で、技術の最先端が、高級車レクサスを造りネットが世界を結び、明日の時代を切り開いている。ともに同時代の出来事だ。
▼彼はNY911の時、エルサレムにいた。その日のコラムは、エルサレム発だ。「ここでは、どこをみても壁ばかりだ。誰から誰を締め出すのか、もう誰にもわからない」(抜粋)。その日から02年7月3日までに掲載したコラムを1冊にまとめた本が『グラウンド・ゼロ』だ。読後にこう感じた。世界は交流が途絶えて遠くて広くなっているのか。近くて狭くなっているのか。と問うのではなく、まずはオリーブの木を「枯らしてはいけない」のである。(本郷発・笠間 直)
- 1