戸板祥子の筝曲の時間

<戸板祥子の筝曲の時間>9.マニアック

2003/09/08 15:27

週刊BCN 2003年09月08日vol.1005掲載

 なぜ、アカデミックな現代作品のコンサートには、客が入らないのだろうか。そして、そのことを良くわかっているのに、懲りずに出演してしまうのはなぜか。しかしそういうコンサートは理想が明快で、かつ演奏家の心をくすぐるものが多い。

 同時代を生きる作曲家から、生まれ落ちたばかりの曲には、湧き水のような冷たさと新鮮さがある。まだ誰にも汚されていない音符の羅列を、私の手で音に変えられることは至上の喜びである。

 そんなマニアックな「邦楽器のための新作演奏会」が9月10日(水)ティアラこうとう小ホール(東京都江東区・都営新宿線住吉駅下車4分)で午後7時から開催される。

 1999年に始まった吉村七重音楽監督による邦楽展。今年は過去の演奏会で初演した秀作と、意欲的な作品を提供してくれた作曲家に委嘱した新作でプログラムが構成されている。

 毎年、新作演奏会のための楽器レクチャーを経て、これまでに数曲ずつ積み重ねられてきた新作群の中には、それぞれの作曲家の箏、もしくは日本の伝統楽器に対する見解が垣間見られる。

 アカデミックな作曲技法を尺八と箏という伝統的な組み合わせに置き換えた村上玲子作品、笙と箏が生み出すスタティックな音楽の柴山拓郎作品。1人の奏者がピアノと僅かにずらされて調律された箏を弾き、不思議な空間を作りだす飛田泰三作品、紡ぎだされる音が様々に交錯し個々の音の存在を問うているかのような田中吉史作品などの数々。

 私は入野賞を受賞した若き作曲家、鈴木治行さんの新作を演奏することになっている。できたてほやほやの曲をこねくり回して、分解して、つなぎあわせ、次第に手になじみ、私の色に染まっていく。この感覚はきっと職人に近いのだろう。

 今回は全7曲、出演は8名の女性箏演奏者、尺八の藤原道山、笙の真鍋尚之等を迎え2時間たっぷりの内容だ。

 寝不足でいくと熟睡すること必至である。私も大学生になるまで、母に連れられて行く新作展では魔法にかかったように眠っていたことを思い出す。

 興味のある方は邦楽展コンサート事務局(03-3944-2081)までお問い合わせください。
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