戸板祥子の筝曲の時間
<戸板祥子の筝曲の時間>4.フランス公演
2003/07/28 15:27
週刊BCN 2003年07月28日vol.1000掲載
失敗といえば忘れ物。言い訳になるが、箏曲者はとにかく荷物が多い。
着物一式・装飾品一式・箏・柱・立奏台・くさび(立奏台をとめる木)・三弦・三弦の糸・楽譜・爪・撥・指スリ・ひざゴム・ガタ止め…ざっとでこんなものです。
私の場合、我が愛すべき弟子との仕事での忘れ物が多く、未だに半端ではない忘れ物をし続けている。
しかし、尊敬する諸先輩方もすごい。帯あげをスカーフで代用するのは序の口で、帯を忘れ、箏を包む布で代用という思いつきもすごいが、爪を忘れて、ピッチカートと歌での即興で済ます。
山手線の網棚に100万円以上する三弦の撥を忘れた。横浜インターコンチネンタルホテルと東京ベイインターコンチネンタルホテルを間違えて横浜に行ってしまい、移動中にタクシーの中で着物へ着替えるという偉業を成し遂げる(赤信号で止まると車から降りて着たらしい)…等々。
さて、私の最大の忘れ物は飲みすぎて記憶をなくしたことだろうか。
フランスに先輩とソプラノ歌手と共に訪れた時のこと。案の定ホームシックにかかり日本への電話代が5万円を超えた。
そんな中、イタリアの公演がストで中止になり暇になってしまった。
その上、異国で日本の歌を演奏すると、余計郷愁が募ったのだろうか?
ソルボンヌ大学の近くに、芸大の美術部の先輩が内装を手がけた「蔵」という日本料理店があった。そこで先輩と2人で日本酒を飲み始めた…。断片的に思い出されることは、先輩と某商社の方々と、カラオケハウス(どこだかは不明)に行き、日本に帰りたいと叫びながら誰かに泣きついたこと。そして翌朝、知らないホテルのツインの部屋で先輩と寝ていた。
それから3日間、その方々にモンマルトルの丘、エッフェル塔、中華料理店を先輩共々案内され、いかにフランスが素晴らしい国かを説明して頂きました。
最後はホテルリッツを訪れ、シャンパンで乾杯。あのホテル中庭まで続く廊下を緊張しながら歩いたことを、今でも鮮明に思い出す。
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