Letters from the World

起業家と経営者

2003/06/09 15:37

週刊BCN 2003年06月09日vol.993掲載

 1999年から00年頃まで、ニューヨークのシリコンアレーでは、数多くの新進気鋭のIT関連企業が誕生した。その多くはIT不況と共に消え去ったかのように思われているが、有名であったにも関わらず、完全に廃業したのは、オンライン宅配のコズモ・ドットコムなどごく少数だ。実は現在でも意外に多くの新興ITベンチャーが名を残しているし、現在では業績も順調に推移しているようにも見える。

 しかし残っているのは名前だけというケースも多い。起業はしたものの、その後経営に行き詰まった起業家たちは既に自らが興した会社を去り、経営権は資金を調達したベンチャーキャピタルから派遣された面々というのが実体だ。これは起業家たちの優れたビジネスモデルは評価されても、経営の能力は別だということで、考えてみれば当たり前である。IT分野に限らず、中小企業には創業経営者によるワンマン体質が目立つが、こちらでは企業はどんどんその姿や中身を変えていってしまう。

 ITバブル時には、突然裕福になった起業家たちの、派手なパーティや豪華なオフィス、そして経常利益からは想像もできない役員報酬など、本業以外の話題には事欠かなかった。彼らは経営そのものではなく、成功者としての裕福な生活だけが目的だったのかもしれない。そしてその多くは、急激に成長する自社の勢いについていけなかったのか、またはそもそもが経営の能力に欠けていたのか、今ではそのほとんどが袂を分かつ結果となっている。

 ベンチャーであれ中小企業であれ、企業の経営者が行うべき役割は明確だ。それを無視して個人の功名心や金銭欲を優先させれば、いずれ破綻は免れまい。経営者が本当にその資質をもつのかは冷静に判断しなければならないし、そうでないなら潔く去ることを覚悟すべきだ。日本にも増えてきた意欲溢れる若き経営者の方々も、この米国の悪しき例を是非今後に生かして頂きたいと切に願っている。(ニューヨーク発)
  • 1