北斗七星

北斗七星 2003年3月31日付 Vol.984

2003/03/31 15:38

週刊BCN 2003年03月31日vol.984掲載

▼慶長19年(1614年)10月。京都・方向寺の鐘に刻まれた銘「国家安康」を口実に、大阪冬の陣は勃発した。徳川幕府が単に因縁をつけたに等しい格好だが、この後、豊臣家は滅亡の道をたどる。後に徳川幕府の蕫黒衣の宰相﨟と呼ばれた天台宗の僧、天海僧正は鐘銘について「徳川家呪詛の文」と主張したものの、大多数の僧は「天下安全の祝文」と解釈していたそうだ。戦争の口実は、力のある側の論理でいかようにも解釈される。

▼ブッシュ米大統領は昨年9月に発表した「米国家安全保障戦略」、いわゆるブッシュ・ドクトリンのなかで、大量破壊兵器の脅威に対処するには冷戦時代に策定された相互確証破壊戦略などの「抑止戦略」では限界があるとし、「先制攻撃」を含む対テロ戦略を安保戦略の核に据えた。今回のイラク戦争もその延長にあるといえるが、ならば先制攻撃に至るだけの蕫脅威﨟とは何だったのか。それこそ国連査察団により明らかにされるべきもので、一国の判断に委ねるには無理がある。国連の存在を無視した行為は、いたずらに時計の針を過去に戻すだけだ。

▼それにしても、小泉首相である。米英軍の侵攻と同時に米国支持を表明したものの、あの程度の説明では情けない。北朝鮮問題を抱え、国連よりも同盟国との関係を優先させたことに一定の理解は示せるものの、これにより日本がテロに晒される危険性が高まったわけで、しっかりしたメッセージを国民に伝えるべきだろう。議員辞職勧告決議で騒いでいた国会も同じだ。
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