Letters from the World

店頭交渉がITの波で無力化

2003/03/10 15:37

週刊BCN 2003年03月10日vol.981掲載

 不注意で携帯電話を紛失してしまい、新たに端末を購入することになった。ニューヨークで物価が安いエリアといえば何といってもチャイナタウンである。ということで、相変わらずの溢れるような人混みをかいくぐり、看板に漢字の並ぶ販売店を数件回ってみた。価格は全て交渉次第、のはずのチャイナタウンだが、実際の市場価格は正規のルートと何ら変わらず、少なくとも価格面でのメリットは見いだせなかった。しかも今回は、回線の契約を結ばないので、どこも対応が冷たい。各携帯電話会社の販売代理店は、回線の新規契約によるリベートが主たる利益であるのは、米国でも日本でも全く同じだ。従って今回のように端末の購入だけは非常に高くつく。

 IT化やインターネットは大手のみならず、中小や零細企業にもチャンスを生むといわれ続けてきた。しかし、チャイナタウンにはパソコンショップは少ないし、安くもない。家庭用ゲーム機器も含め、安くパソコンを購入するのは今やオンラインが一番だし、これは他の多くの工業製品についても同様だろう。IT化により生産がきちんと管理され、品質が安定したこれらの商品は、もはや人件費や仕入れルートの違いなどによる価格差は生まれにくい。かつてのような、ツテやコネ、そして店頭での交渉による価格決定などの販売手法は、IT化の波の前には無力になりつつある。

 これまで、市場の小さな隙間を埋めてきたチャイナタウンの人々は、もはや、その手法では往来のような商売を維持することはできなくなりつつある。今はまだパソコンや家電だけかもしれない。しかしあらゆる業界でIT化が進む現在、コスト削減や生産量など全てが徹底的に管理されつつある。いずれは食材や衣料などの分野でも、チャイナタンは明確な価格差を生み出せなくなるに違いない。そうなったら彼らはどうするのだろう。隙間産業をも一括して飲み込みかねないIT化とは、本当は弱者をくじくものなのかもしれない。(ニューヨーク発)
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