旅の蜃気楼

平和

2003/01/20 15:38

週刊BCN 2003年01月20日vol.974掲載

▼夜明けは近い。満天の星空を見上げながら、ぶるっと身震いをする。冬山の夜空は、音がない。あるとすれば、「星の輝き」の音だ。年が明けて、一斉に「今年の見通し」についての情報が目や耳から飛び込んできた。経営者は押しなべて、元気と勇気と独創性を出そう、と社員に呼びかけている。企業の活動は冷静さを取り戻して、明日を築こうと動き始めた。驚いたのは成人式の記事だ。数年前の様相とは一変して、一生懸命生きる前向きな若者たちの当日を報道している。街中では誇らしげに振袖を着て歩く晴れ姿を見た。すがすがしくていい。実際はどうなのだろうか。不思議なもので、新聞記事が伝える様相が世の中の全体だと見誤ってしまうことがある。

▼今年の1月は休みが多い。ぜんざいを食べながら、CNNを一日中を見た。日本のテレビ番組では見えない世界がそこにある。世界にはこんなにも戦争が多いんだ。日本はなんという平和な国なんだろうか。池袋まで散歩した。立教大学の脇にあるスターバックスは1階、2階とも満員で、気取った女性が、気取ってコーヒーを飲んでいる。なかなか様になっている。のだが、CNNの映像でいっぱいの頭には、銀紙かセロハン細工の生活のように映ってしまう。でもこれが平和なのだ。

▼奥武蔵にある伊豆が岳に出かけた。西武池袋線の飯能駅からさらに秩父に向けて走る。正丸駅で下車。とことこと川沿いの集落を抜けて、馬頭観音の祠のある道標で左に折れる。そこから山道に入る。雪景色を楽しみながら沢沿いを歩く。急な登りを楽しむことにする。雪の斜面は滑って、歯ごたえがある。ピッケルをもって出ておお助かりだ。攀じ登ること10分ほどで尾根にのっ越す。息を整える。ちょっと苦しい。その後、いつもは高巻く岩壁を登ることにした。鎖の助けを借りて雪のついた岩肌を登る。滑り落ちると10メートルはあるから痛いはずだ。つるつる滑って、アドレナリンが出る。岩の頂上に立つ。ああ、すっきりした。激動の年が動き始めた。(本郷発・笠間 直)
  • 1