旅の蜃気楼

筑波を歩く

2002/11/18 15:38

週刊BCN 2002年11月18日vol.966掲載

▼街にいると山が恋しい。山にいると街が恋しい。人間はわがままにできているんですね。秋は果実の豊富な季節だ。なかでも、柿が一番好きです。最高の恵みと思っている。八ヶ岳の美濃戸口から登山口に入る脇の小屋では干し柿を作っている。2階にぶら下がっている干し柿の色が、少しずつ色が濃くなっていく。冷え込みも深まり、黒ずみ始め、まだ中のやわらかい干し柿は、なんて美味しいんだろうか。ああ、もう少しの辛抱だ。味覚も素敵だが、色合いもいい。初冬の真っ青な空に、凛とした炎のように色づいた柿を見ると、見とれてしまう。

▼コンピュータ屋の仲間も、自然に親しむ人が増えてきた。「りんりんロードを歩きませんか」。広田文世さんからお誘いのEメールが入った。55歳になるソフト会社・トータルシステムデザインの社長で、土浦が本拠地だ。36歳の時にオフコンのソフト開発会社として創業し、パソコンのソフト開発に時代とともに、事業を転換した会社だ。苦しい時代を通過して、山歩きという健康法を身につけ、ついにプロの域にまで達したそうだ。「山梨大学当時は山三昧」。今は郷土・茨城の山々を歩き、常陽新聞の山コラムの連載を綴っている。代表的な山は筑波山だ。りんりんロードは土浦駅から筑波までの整備された廃線跡を、るんるん気分で歩く道だ。西にまっすぐ伸びた道。右手に名産の蓮田を見て、筑波山を仰ぐ図だ。

▼およそ18キロの道を、筑波の風に吹かれながら歩く。白く流れる雲に、冬を感じる。枯れた茶色い葉っぱが蓮田に倒れ込み、黒い沼地の底に、いくつも穴の開いたレンコンが、縦横無尽に根を張っている。筑波山が近くなる。麓の町・北条で、揚げたての油揚げを頬ばむ。神郡(かんごおり)に入って、目の前に猫の耳のような形をした山を見る。この集落に会席そば屋「ゐ多」がある。自然の中の粋な母屋、ざっくりした手打ちのそば、BGMは小さな音のJAZZ。なによりも、酒が旨い。広田さんは席を立とうとしない。(筑波山発・笠間直)
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