ITテッなライフ

<ITテッなライフ>7.ふらり式観劇のすすめ

2002/11/18 15:26

週刊BCN 2002年11月18日vol.966掲載

 ふらり、と演劇を観に行くのが好きである。ありがたいことに近所に劇場が2つあり、だいたい毎日何かやっているので重宝している。

 劇場近くで貼ってあるポスターから漂うイメージから、なんとなく気が合いそう、観なきゃ損するな的な匂いを感じとると、勝手に足が劇場に「ふらり」となるのである。

 そんなわけで、当日売られているのはほとんどが2階以上の席か座布団席の類である。が、ふらりと行くには、このぐらいの席がちょうど気分にあっている。

 最近、「ふらり」式観劇をしたのは、ロベール・ルパージュ作・演出「月の向こう側」。

 チケットは開演1時間前から発売だったので、間に合うように行くと、すでに五十人近くの老若男女が並んでいるのに驚いた。当日券は売り切れか、と思いきや、自由席のチケット(2000円也)を無事購入。開場された。

 が、自由席の人々は開演時間まで階段で2列になって待たなければならないという。おやおや、自由席なのに不自由席ではないかい、とツッコミを入れようと思ったのも束の間。この待ち時間が、そうイヤなものではないことに気づいたのですね。

 というのも、一緒に行列をつくった人たちのおかげ。真剣にパンフレットをめくるアングラ劇団員とおぼしき青年、ほろ苦い香りのカップコーヒーをすする婦人、時々笑い声を立てて小さな声でお喋りする女子高校生たちと共に、上演される作品を待つという、例えると土のなかで芽吹く頃を今か今かと待っている希望を孕んだ種になった気分といいましょうか。その連帯感が妙に心地よかったわけです。

 コンピュータネットワークの発達で、国内どこでも何の苦もなくチケットを購入できるシステムもありがたい昨今。

 並んでチケットを買い、並んで開演時間を待つという、IT時代には一見非合理的と思える行為もたまにはよいものです。

 心臓の音が聴こえてきそうな人と人との間に、安堵を感じるからさ。
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