ITテッなライフ

<ITテッなライフ>6.涙のほぐし技

2002/11/11 15:26

週刊BCN 2002年11月11日vol.965掲載

 ある夜中、布団の上で女友達を泣かせた。「うぎゃぁぁ、やめでぇぇ」と友は涙をこぼした。でもその後「ああ、スッキリしたー。ケイコってなかなか巧いね。きもちいーい」。ひっひっひっ。この言葉を待っていたのだぞ。わたしは嬉しくてニヤリとした。

 と、書いても何のことやらさっぱりわからないでしょ?

 実は、はるばる拙宅に泊まりにやって来た友に「お疲れかな。足裏をほぐしてしんぜよう」と親切に申し出た由である。

 その数日前のこと。歩き疲れたわたしは足裏マッサージ屋のゆったりした椅子に上半身をやや起こして座っているお客だった。

 マッサージ師のおじさんが、両足を触る。「右目が疲れてるね。コンピュータ使ってる?」「はい」「やっぱり。老廃物が溜まってる」

 わたしの左足親指をおじさんがポンと叩いた。おじさんが人差し指の第二関節を使って、左足親指をガリガリとこすりはじめた。ぎゃああ。わたしは痛さに耐えきれず、叫んでしまった。

 が、「左足の親指は右目とつながっているからさ。ガリガリいってるのは老廃物」とおじさんは涼しい顔して、やめてはくれぬ。

 これは一種の拷問だ。だが国内外を旅すれば必ず「ほぐし技」を施してもらうことを生きがいにしているわたしではないか、母国のマッサージをリタイアしてどうする、などとほぐし技に仁義?だてをして、ぐっと痛みをこらえることにしたのである。

 ぎゃア゛あ。ヴぐゅうう。この最中に気づいたのは、痛みと濁音は親密な関係にあるということだ。

 揉まれた足裏の痛みが即座に五臓六腑に響きわたり、そこから濁音の混ざった叫び声に変換されるという体感の図式である。これを繰り返すと足全体がすっかり軽くなっていった。

 ああ、なんという極楽。足裏をほぐしてしんぜよう、と申し出たわたしだが、つい忘れていたことがある。施術の最後に老廃物を流す作用があるという白湯を飲ませることを、だ。おほほ。友よ、許せ!
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