9月11日。あれからもう1年がたった。今は平穏なニューヨークの街を歩いて感じるのは、とにかくもう二度と起こって欲しくはないということだ。これだけは全ての人に共通すると思う。自宅屋上から見続けた光景は過ぎ去った夢のようであり、しかしいまだに生々しく辛い思い出でもある。

　時期を同じくして米国経済は急激に下降していった。大企業の不祥事の露呈と相まって、各産業界は業績の低下を免れないままである。市民の生活に暗い陰がさしている間は、さらなる消費や投資には二の足を踏むケースが多いのもしかたない。航空各社は今後数年間は悲鳴を上げ続けるだろう。

　民間企業のみならず行政機関も、復旧などに費やす莫大な経費負担により、一層厳しい財政への対応を余儀なくされている。また失業者も多く、とくに海外からの労働者は厳しいビザの取締りの為、帰国を余儀なくされる方も目立つ。ところで一般市民としてとくに気になるのは、ニューヨークで開催されるありとあらゆるイベントがテロ事件に何らかの影響を受けてしまっているという点である。MBAやNFLといったメジャーなスポーツイベントでは必ず犠牲者への追悼の意が述べられるし、アイドル歌手のライブでもブロードウェイミュージカルでも何かしらの言及は行われている。

　とくに一周年の式典の直前に行われたUSオープンテニスでは、その警備の厳しさと共に、会場に大きなモニュメントが置かれるなど事件に関する忌まわしい記憶の呼び水の役割を担っているかのようだ。悲劇の爪痕はいまだに多大な影響をニューヨークに残している。これからもしばらくは元の楽しいばかりのスポーツイベントは見ることができないだろう。数年前のITバブルの頃には、多くのドットコム企業が各種のスポーツイベントに軒を並べていた。バブルを懐かしむわけではないが、前向きで明るいあの頃の気持ちを取り戻すためにも、一日も早く本当の意味での復興を期待したい。（ニューヨーク発）