旅の蜃気楼
月山
2002/08/26 15:38
週刊BCN 2002年08月26日vol.954掲載
▼街にいると山が恋しい。山にいると街が恋しい。人間はわがままにできているんですね。お盆休みは毎年、山形県鶴岡の月山に登る。13日の夜、山頂で卒塔婆を焚いて、迎え火とする「柴灯祭」が行われるのである。今年は多い人数だった。100人近くいた。15メートル四方ほどの小さな山頂に、卒塔婆の束と祭壇と山伏と参詣者がぎっしりと詰まる。7時、ほら貝が「ブオー」となる。祭りの開始だ。風が日本海からビュービューと吹き荒れる。それでも今年は雨が少なかったから、恵まれていた。晴れて星が見える時は、12年も来ていて、数回ではなかったか。それほど悪条件の時が多い。それでも、人が集まる。
▼山頂(海抜1984メートル)の暴風雨は真夏でも寒い。それでも山伏たちは、白装束に薄いビニールのカッパを被っているだけ。木綿の装束はびしょぬれである。足回りも地下足袋だ。これじゃ沢登りみたいで、足の指先も冷たいだろうな。こちらはノースフェイスのカッパだ。ゴアテックス生地だから、撥水性がよく透湿性もいい。相当な悪条件でも、このカッパで雨と寒さを凌げる。まことに頼もしい山の装備なのだ。装備といえば、今年はソニーの単行本サイズの小柄で可愛いバイオ-Uを持ち上げた。
▼柴灯祭の醍醐味は、卒塔婆に火を入れるときだ。雨風が吹き荒れるなか、卒塔婆に火がつく。いったん燃え上がった勢いは強い風の勢いに引っ張られて、炎が真っ黒な空にちぎれ飛んでいく。いくつも、いくつも、ちぎれ飛んでいく。オレンジの炎が「ゴーゴー」と唸りながら、ちぎれ飛んでいく。ときおり、卒塔婆が音を立てて崩れる。その光景に、夢見心地になる。思い出したように、所縁ある11名の戒名を繰り返し唱えながら、火を見入る。(月山発・笠間 直)
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