Letters from the World

シーグラフ

2002/08/12 15:37

週刊BCN 2002年08月12日vol.953掲載

 シーグラフという展示会をご存じだろうか。今年はアメリカの中西部、テキサス州サン・アントニオで開かれたこのイベントは、3Dや特殊効果などを中心に、毎年信じられないような先端技術を目の当たりにすることができる。それはまさに夢の21世紀の実現であり、空想の未来がもうすぐそこまで来ていることを感じさせてくれる。一般の来訪者にも非常に人気が高い。

 ところで西海岸のシリコンバレーは技術開発指向。それに比べてニューヨークのシリコンアレーはいかにそれらを実社会に取り入れるかを重視、明快な棲み分けがなされてきた。しかし近年は、米国経済の失速やそれにともなうIT産業各社の人員削減などにより、かつてのような活発な先行投資は不可能であり、経営はどこも厳しい。それぞれの地域的特色にとらわれない方向で、生き残る道を模索している。

 このような流れのなか、シーグラフの出展各企業も、いかにして自社の技術を売り込むか、または市場でのシェアを獲得するかが大きな課題となっている。高い技術がそれだけでもてはやされ、投資家からの莫大な資金導入を可能としていた時代は過ぎ去り、今ではいかに早急に経費を回収するか、一刻も早く収益構造への転換を図ることが、大きな命題として各企業の経営陣へのし掛かってきている。先端技術を見せられつつも現実の社会に売り込むことが困難であるというのは、ある種皮肉な状況ではある。

 シーグラフは、毎年その会場となる都市を変更している。これはやはり新しい土壌の確保への期待の現れだ。そしてもちろんシリコンバレー/シリコンアレーに飲み込まれたくはないと言う気持ちも強いのであろう。この手のイベントのなかでは今や唯一とも言って良いほどに夢を感じさせてくれるシーグラフが安住の地を見つけることができるかどうかは、もしかしたらIT産業の未来を占うことにもなるのかもしれない。(ニューヨーク発)
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