Letters from the World

ゲーム機の可能性

2002/07/15 15:37

週刊BCN 2002年07月15日vol.949掲載

 先日ロサンゼルスで開催されたハイテク・エンターテインメント関係の見本市、通称E3においてソニーが自社のゲーム機「プレイステーション2」の市場席巻を認めたうえで、その競争は終焉したと述べた。出荷台数を確認するまでもなく、街のショップに並ぶゲームソフトを見れば、ソニーのひとり勝ちなのは容易に理解できる。しかしこのことがかえって市場を縮小することにはならないだろうか。

 例えば自動車は各メーカーが用途に合わせた多様な製品を送り出している。メーカーや車種も含めてその購買は自由であり、消費者は自身の用途にとって最良の選択を行える。それは家電でも同様で、企業間の競争が技術向上と価格低下の両方を市場にもたらすのは自明の理だ。しかしIT産業はプラットフォームが1社になっても競合他社がその類似品を作ることはかなわない。将来ソニー1社のみでゲーム市場が形成されれば、また1つユーザーは不利益を被ることになるのではないだろうか。

 そして過去に市場の独占がもたらした業界の衰退と価格の高騰は枚挙にいとまがないところで近年のハイテク機器のなかで、ゲーム機が1つ抜きんでていることがある。それはほとんどのユーザーがマニュアルを必要とせず、その素晴らしい恩恵を購入直後から享受できる点である。

 市中の本屋にはいまだにパソコン関係の書籍が大きなスペースを占めているが、例えば冷蔵庫の使い方などという書籍は探すのも大変だ。基本操作そのものを収得するのに特別な指南書が必要な状況は、現在においてもパソコンがいかに日常生活からかけ離れているかの象徴ではないだろうか。ゲーム機は、ユーザーが購入したらすぐにその利益を企業が受け取ることのできる初めてのIT機器である。将来のIT機器のあるべき姿を具現化しつつあるゲーム機には、もっと自由に可能性を模索して欲しいものだし、またその為の環境づくりに各メーカーは尽力して頂きたい。(ニューヨーク発)
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