パソコンじたばた日記
<パソコンじたばた日記>第3回
2002/07/15 15:26
週刊BCN 2002年07月15日vol.949掲載
ひとつには、生まれて初めて友人から借りたパソコンが88シリーズだったためと、自分で初めて買った「パーソナルワープロ」が、N社の製品だったものだから、その流れをくんでいるということがある。「文豪シリーズ」なんて、気恥ずかしい名前のついたワープロも、3台は買い換えたように記憶している。思えばあの頃から、私の格闘は始まっていた。
家庭用ワープロは、それこそPTAのお知らせや飲食店のメニュー、回覧板などが手軽に作れます、年賀状印刷もバッチリよ、といった程度の使用目的で発売されたものだと思う。つまり職業作家のように、丸一日中、通電しっ放しという使用方法を、あまり想定していなかったのかも知れない。だから、酷使に耐えられなかった。
あれは、雑誌の締め切り前日のことだった。原稿用紙にして80枚分の短編小説を、もうすぐ書き終えるというところまで来たとき、悲劇が起きた。何かの拍子に、勝手にワープロのディスプレイが真っ黒になった。一瞬、何が起きたのか分からなかった。
――何、なに? なんで、どうして。
頭がパニックになった。慌ててスイッチをカチカチしてみる。すると数分後、ワープロは何事もなかったかのように立ち上がった。だが、ホッとしたのもつかの間――完成間近だった原稿が、どこにもない! どこを、どう探してもない。自動バックアップもとれていなかった。まるで煙のように、見事に消えてしまっていたのである。フロッピーに残されていたわずかな出だし部分以外は、ゼロに戻っていた。
翌日まで、泣きべそをかきながら原稿を書き直したことは言うまでもない。そして、その悲劇が、私をワープロ派からパソコン派へと移行させるきっかけになったのだった。
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