旅の蜃気楼
<e-Silkroad編 アジアのIT利用技術立国を目指せ>その14 人の価値とは、さまざまだ
2002/04/08 15:38
週刊BCN 2002年04月08日vol.936掲載
▼いやはや何が起こるかわからない。連勝する阪神。それで街が活気づく関西。人が感じる価値とは不可解なものである。連勝でフィーバーする新神戸駅で、タクシーに乗った。今でこそ東京で珍しくもなくなったが、駅前のロータリーには「黒タク」がズラリ並んでいる。東京では「黒塗り」の車といえば、重役か、冠婚葬祭で使う高級なハイヤーを意味している。ところが不景気が価値観を変えた。「タクシーでハイヤー並みのサービス」を提供しようと、東京地区でドライバーの品質を誇りにしている(していた?)、通称、タクシー会社の頭文字をとって「大日本帝国」という4社が、乗り心地を良くした車種を使って、人気を盛り返している。安い料金のタクシーに乗って、新米ドライバーに遭遇したときには最悪だ。不愉快な思いをするより、660円の通常料金で、快適かつ安全に目的地に着きたい。そんな思いが、黒タクの乗車率を引き上げているのだろう。貧困な時代と基本的に違う現在の豊穣な経済のなかにあって、価格と価値の本質を、再考する時にある。
▼価値観の相違は、生活の至るところで存在する。狭い日本にあっても、地域文化で価値は異なる。旅をする時には、その価値観の違いを感じること自体が楽しみなのかもしれない。その最たるものは時間の価値だ。のんびりした神戸・学園都市の田園風景に身を置くと、草むらに寝転びたくなる。出張カバンを枕にして、春眠を楽しむことになる。しかし、それも束の間。異次元の価値観の旅は、1時間ほどで東京モードに戻る。いや、気分的にはもう少し、旅を求めてはいた。これがサイバーの世界になると、スケールが突然広がる。インターネットの世界に入ると、そこは未知の世界だ。膨大なアーカイブの世界だ。好奇心の旺盛な人と、知的な冒険が好きな人にはとにかく堪らない世界が広がっている。
▼やがてオンラインでサーフィンを楽しんでいた人が、物足りなくてオフラインで活動を始める。いわゆるリアルの世界に戻ってくるのだ。目で見た知識を現実に見てみたい。そこで、旅となる。写真上は、この連載でたびたび登場する、バンガロールのギリさんが社長を務める日印ソフトウェアの一角で写した。インドの家屋会社にはヒンズー教を祭った部屋がある。日本でいえば、神棚であり、仏壇だが、色と嗅覚は異文化だ。写真下はシンガポールのお寺だ。早朝参拝してみた。日本と同じように、お年寄りが多い。53歳ではまだまだツー・ヤングで、違和感を覚える世代の人が、手に手に長い線香をもって、無言でお参りしている。文化は価値の塊である。ネットの中を文化が交流し始めている。(旅の蜃気楼 神戸発・BCN主幹奥田喜久男)
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